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アフター・コロナで、大事なこと【舩越園子コラム】

先週、松山英樹が日本から米国へ旅立ち、英国からはマシュー・フィッツパトリックが渡米した。いよいよ米ツアー選手たちが6月11日からの再開に向けて動き出した感が強まってきているが、アフター・コロナの米ツアー再開は、なかなか一筋縄では行かない様子だ。

フィッツパトリックは特定のアスリート等を対象とした欧州から米国への入国制限が解除される日を心待ちにしていたそうで、解除の知らせを受けるやいなや、即渡米した。

しかし、入国はできても入国後14日間は自主隔離が求められる。現在、彼はフロリダ州内の自宅アパートで隔離生活中。それが明けたら、ツアー再開初戦となる「チャールズ・シュワブチャレンジ」(6月11日〜14日)に出場する予定でいる。

「米ツアーという場があること、そこへ僕自身、カムバックできることに心から感謝しています。規則に従っていれば、恐れることは何もない」

フィッツパトリックはそう言っているのだが、同じ英国のリー・ウェストウッドやトミー・フリートウッドは「米国入国時に14日間の隔離、英国帰国時に再び14日間の隔離。そこまでして米ツアーに出る価値はない」「今、米ツアーに出ることは考えられない」と、正反対の姿勢を見せている。

現在、チャールズ・シュワブチャレンジにエントリーしているのは、ディフェンディング・チャンピオンのケビン・ナ(米国)を筆頭に、ローリー・マキロイ(北アイルランド)、ジョン・ラーム(スペイン)、ブルックス・ケプカ、ジャスティン・トーマス、ダスティン・ジョンソン(いずれも米国)の世界ランキング・トップ5全員だ。トップ10内のパトリック・リード、ウェブ・シンプソン(ともに米国)らも名を連ねている。

一方、元王者で世界11位のタイガー・ウッズ(米国)の名前は見当たらない。「マスターズ」覇者で世界6位のアダム・スコット(オーストラリア)は「試合会場での検査体制、安全管理が十分に行なわれるとは思えない」として、再開からの4試合には出場しない意志を表明。松山も初戦は様子を見るつもりだとのこと。選手たちの意向や姿勢を一本化すること、コンセンサスを得ることは、なかなか難しそうである。

しかし、賛否両論ある中で、米ツアーは再開に踏み切ろうとしている。どこかで見切り発車しなければ、いつまでも始まらないし、始められないということなのだろう。

無観客で開催するか、観客を入れて開催するか。観客を入れるとしたら、入場制限を設けるか、それとも無制限でフルに入れるか。その判断も難しい。

再開からの4試合は無観客と決まっているが、5試合目になるはずだった「ジョン・ディア・クラシック」(7月9日〜12日)は、迷いに迷った挙句、「感染防止上、観客を入れることは難しい。しかし観客が居ない試合を開催しても意味がない」と中止を発表した。

すると、米ツアーはジョン・ディア・クラシックに代わる「新大会を創設する」ことを即座に発表。すでに全米5カ所前後の候補地が上がり、米ツアーはこれからわずか5週間のうちに新大会を創設するという驚異的チャレンジを開始している。

未知のウイルスと共存せざるを得ないこれからのゴルフ界においては、そんなふうに意見や姿勢が分かれるケースが増えていく。

渡米を望む外国人選手がいれば、望まない外国人選手もいる。苦悩の末に中止を決めた大会があれば、迷うことなく新大会創設に向けて動き出すツアーが実際にある。

しかし、アフター・コロナでは、どんな立場も、どんな意見も、否定することなく、リスペクトしながら検討していくことが大事なのだと思う。

もちろん、前進するためには、ときには見切り発車も必要。だが、その車に「同乗」しないことを選んだ人々を見捨てることや切り捨てることは決してあってはならない。

米国の主要スポーツの中で最初に再開することや1つでも多くの試合を開くことは、米ツアーにとって優先すべき事項なのだろう。だが、疾走している足をちょっとだけ止めて、ときどき足元を見る余裕、振り返る余裕も持っていてほしい。

そういう優しさや気遣いこそが、米ツアーの最大の魅力なのだから――。

文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>