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泣くつもりはなかったのに… 異例のプレーオフが原英莉花の涙を生んだ!【現場記者の“こぼれ話”】

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、国内だけでなく世界各国で中止が余儀なくされているゴルフトーナメント。なかなか試合の臨場感を伝えることができない状況が続いています。そんな状況のなか、少しでもツアーに思いを馳せてもらおうとツアー取材担当が見た選手の意外な素顔や強さの秘訣、思い出の取材などを紹介。今回は原英莉花が初優勝を挙げたときの裏話。

原英莉花、4年前の日本ジュニア出場時【秘蔵写真】

初優勝が期待されていたホープの初タイトル。それだけでも感動的なことですが、昨年の「リゾートトラスト レディス」がとてもドラマチックだったのは原プロが涙を流したからではないでしょうか。この涙について原プロは「涙を流すつもりはなかったけど、泣いちゃいました」と話しており、思いがけず流れたものだったようです。

では、なぜ涙を流したのか。それは他の大会ではあまり見られない、この大会特有のプレーオフの形式だったからだと思っています。

通常18番ホールを繰り返すことが多いプレーオフですが、この大会は18番ホール(パー4)と15番ホール(パー3)を交互にプレーする形式でした。大会最終日は5835人ものギャラリーが集まり、18番も15番も優勝の瞬間を見ようとホールを囲むように人、人、人。そんな状況で初優勝をかけた一騎打ちは行われました。

結果はご存知の通り。1ホール目となる18番は互いにパー、そして2ホール目となる15番でバーディを奪って原プロの優勝が決定。右手を天高くつき上げました。そしてペ・ソンウプロと健闘を称えあいます。

ここからが通常のトーナメントと異なりました。18番で行われていれば、そのまま優勝を祝福する他の選手との抱擁やインタビューが始まります。そして表彰式へ…、という流れ。ですが、優勝の舞台は18番グリーンから離れた15番グリーン。なので、まずは表彰式が行われる18番に移動をしないといけなかったというわけです。

原プロが涙を流したのは、まさにこの移動中でした。この後に行われた優勝会見で「プレーオフが終わった後、ギャラリーの方々から『おめでとう』と言われているうちに鳥肌とともに涙が出ました」と語っています。グリーンからティへ。逆走する15番ホールを縫うように詰めかけたファンからの大声援はものすごく、その場にいた私も鳥肌が立ったことを覚えています。

このとき、私の隣にいた原プロのお母様はもらい泣きしていました。「気持ち的に相当きつかったと思います」とねぎらった後、出てきた言葉は「でも、泣くとは思いませんでした」。ずっと娘の頑張りを見続けてきたお母様でも驚いていました。

もし、プレーオフが18番の繰り返しで行われていたら…。優勝決定後、すぐに優勝のインタビューが始まって表彰式へ。どちらもギャラリーの絶え間ない「おめでとう!」が響くとは思えません。表彰式が終われば、そのままクラブハウスで優勝会見。ファンがねぎらいの言葉をかけられる状況となるころには、原プロの気持ちは時間が経って落ち着いていたでしょう。そう考えると、異例のプレーオフだったからこその涙だったのかな、と思っています。

最終日、一時トップに立ちながら終盤で伸ばせず優勝を逃した河本結プロも涙を流していました。一方、首位で最終日をスタートするも勝てなかった当時アマチュアの古江彩佳プロ、プレーオフで敗れたソンウプロは淡々と記者の質問に答えていました。勝者だけでなく、敗者たちのコントラストもドラマ性に富んだ大会だったといえます。そして今、名前を挙げた選手は全員昨年のツアー優勝者。すべての要素がかみ合った、帰りの新東名高速道路でも目が冴え続けるほどの名勝負でした。(文・秋田義和)

<ゴルフ情報ALBA.Net>